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# Summary
Self-hosted LiveSync は、ローカルの Markdown ファイルとして文書を保存するノートアプリ Obsidian [@obsidian] 向けのオープンソース同期プラグインである。ユーザーが管理するストレージまたは直接のピアツーピア接続を介し、ノートや添付ファイルを収めたディレクトリー(Vault)をデスクトップとモバイルデバイス間で同期する。
本プラグインにより、ユーザーはオフラインで編集を行い、再接続後に同期できる。2台のオフライン端末で同一ノートを別々に編集した場合のように編集の衝突が生じても、即座の解決を強制したり競合する変更を無条件に上書きしたりすることはない。ファイル形式や設定されたポリシーに応じて、重複しない変更箇所の自動マージや、競合する版を後から比較・解決するための保持が可能である。組み込みの検査ツールは、競合や内容の欠落の調査を支援し、コピーが残っている場合の復旧を支援する。
本ソフトウエアは、データの保存先を自ら管理しながら複数デバイスで記録を継続する必要がある研究者、エンジニア、および実務者のワークフローに対応する。
# Statement of Need
研究やエンジニアリングのワークフローは、長期間蓄積されるノート、観察記録、設計上の決定事項、および関連ファイルに依存している。著者の業務では、管理下にある各デバイスの導入ソフトウエアを制御し、業務ファイルを自身の管理下にあるインフラで扱い、運用実績のあるサーバーソフトウエアを採用する必要があった。これらの制約から、デスクトップとモバイル双方の Obsidian 内で直接動作し、外部クライアントデーモンを必要としない同期エンジンを開発した。
オフライン端末で別々に行った編集の競合は、変更を交換した際に認識される。意図しない編集や削除、並行した変更の乖離、あるいはデータベースの状態とは独立した外部ツールによるファイル変更も起こりうる。競合する版を保持せずに単一の版で上書きしてしまうと、ユーザーが変更を確認して判断する前に情報が失われるおそれがある。
フィールドワークやモバイルでの作業中、研究者や実務者は、競合する編集内容をレビューする前であっても、観察の記録とデバイス間でのノート転送を続ける必要がある。Self-hosted LiveSync は、このように記録と競合解決を分けて進める作業を支援する。並行ブランチが未解決のままでも複製を継続でき、競合する編集は、レビューまたは設定されたポリシーによって解決されるまで保護される。
# State of the Field
ローカルファーストソフトウエアは、ユーザーデータの唯一の所有者としてのホスト型サービスへの依存を避けつつ、ローカルにおける可用性と、複数デバイス間での同期や協調を両立させる [@kleppmann2019localfirst]。Obsidian エコシステム内では、いくつかのツールが異なるアプローチから複数デバイス間の同期に対応している。Obsidian Sync は統合されたホスト型サービスを提供し [@obsidiansync]、Obsidian Git はバージョン管理指向の push/pull ワークフローを提供し [@obsidiangit]、Syncthing はファイルシステム層で動作し [@syncthing]、Remotely Save はクラウドやセルフホスト型ストレージの複数の API に Obsidian を接続する [@remotelysave]。
これらのアプローチは、並行する変更の表現方法が異なる。Syncthing は競合コピーを通常のファイルとして他のデバイスへ転送し [@syncthingsync]、Git は分岐した履歴をマージ前に取得できる [@gitfetch]。Obsidian Git はデスクトップおよびモバイル上でこの操作を自動化している [@obsidiangit]。Conflict-free Replicated Data TypesCRDT)でも複数の選択肢を検査でき、Automerge は同じオブジェクトプロパティーへの並行した代入を保持する [@automergeconflicts]。Self-hosted LiveSync は、競合するファイルの各バージョンを、メタデータドキュメントのリビジョンツリー上の末端リビジョン(leaf、各分岐の現在の版)として保持し、設定されたポリシーまたはユーザーによる明示的な操作によって解決されるまで維持する。
これらの既存ツールはそれぞれ異なる運用上の要請に応えている。ホスト型サービスは導入の平易さを重視し、外部のファイル同期ツールは任意のファイルシステムツリーを対象とし、バージョン管理ツールは明示的なコミットワークフローを前提としている。一方、著者の環境では管理対象デバイス上でバックグラウンドクライアントデーモンの実行が制限されており、かつ競合する版の保持と、その版に結び付いたファイル更新を扱うためには、複製処理とローカルファイル操作を直接統合する必要があった。そのため、Self-hosted LiveSync は外部デーモンを介さず Obsidian 内で直接動作するプラグインとして構築され、複数のバックエンドで同一のリビジョンセマンティクスを維持するために、中核ロジックをプラットホーム非依存のエンジンとして分離する構成が採用された。
Self-hosted LiveSync は新しいデータベース複製アルゴリズムを導入するものではない。むしろその貢献は、リビジョン認識可能なデータベースのセマンティクスを、外部から編集できるファイル Vault へ適用した点にある。Content-addressed なチャンク、デバイスローカルな来歴情報、および組み込みの復旧ツールにより、通常のノート作成ワークフローを損なうことなく、競合のレビューを保留しながら編集を継続できるようにしている。
# Software Design
共通の複製サービスおよび競合処理サービスは `@vrtmrz/livesync-commonlib` [@commonlib021] として公開されており、Obsidian プラグイン、コマンドラインインターフェース(CLI)、Web アプリケーション、および Web Peer で利用されている。
## Revision-aware Vault representation
Vault の各ファイルは、ローカルの PouchDB [@pouchdb] 内で、パス、サイズ、更新日時、および分割されたチャンクドキュメントへの参照を含むメタデータドキュメントとして表現される。チャンクは Content-addressed であり、同一のコンテンツ領域を持つリビジョン間や異なるファイル間で再利用できる。複数デバイス間で並行して更新が行われると、メタデータドキュメントの周囲に競合する複数の leaf(子を持たない末端リビジョン)が形成される。PouchDB はデフォルトの取得対象として決定論的な winner(選出された leaf)を選出するが、この選択は内部的なタイブレークに過ぎず、その winner がより新しい、より安全である、あるいは特定のデバイスの Vault に表示されているバージョンであることを証明するものではない。
並行する更新によってブランチ $\alpha$ と $\beta$ に分岐した場合、両方の leaf は解決前に他のデバイスへ複製される。自動3方向マージは、両方の leaf と最も近い利用可能な共通祖先についてメタデータ本文およびチャンクが読み取り可能である場合に、Markdown(`.md`)、Canvas`.canvas`)、および JSON`.json`)ファイルを対象として適用される(その他の形式は対象外である)。Markdown では、同一オフセットへの並行した挿入は即座に失敗とせず、更新日時に応じて順次連結して統合できる。CouchDB の複製プロトコルは祖先リビジョンの識別子を伝播するものの祖先の内容は取得しないため [@couchdbreplication]、祖先の履歴や内容が欠落している場合、あるいは互換性のない編集衝突が生じた場合、同期エンジンは自動マージを保留する。自動マージが無効または適用不能であり両方の版が読み取り可能である場合、JSON ファイルおよび内容の異なるバイナリーファイルは互換性のための動作として、「常に新しいファイルで上書きする」が無効であっても更新日時によって解決され、このオプションを有効にするとテキストの競合にも当該解決が拡張される。それ以外の場合、テキストの競合は手動解決のために保持され、両方の版が読み取り可能であれば2方向の差分(two-way diff)によって直接比較できる。
## Device-local branch provenance
データベースは競合する複数のブランチを同時に保持できるが、ローカルの Vault は任意のパスに対して単一の実体ファイルしか配置できない。ローカルファイルがどのブランチを表しているかを識別するため、本プラグインは正確なデータベースリビジョンと観測されたローカルの更新日時をデバイスローカルな Key-Value ストアに保存する。このリビジョンは当該パスの**ブランチアンカー**として機能し、データベースから Vault への実体化、または Vault からデータベースへの書き込みが成功した後に更新される。
未解決の競合が存在する状態において、ローカルで行われた編集や論理削除はアンカーされたリビジョンの子となり、競合する leaf を損なうことなく、その特定のブランチを前進させる。パスをまたぐリネームでは、移動先を保存した上で、アンカーされた移動元のブランチのみを論理削除する。この状態で来歴情報が利用できない場合、本プラグインはファイルのバイト列が利用可能な既存の単一リビジョン本文と厳密に一致する場合に限り Vault 内のファイルをそのリビジョンにひもづけ、それ以外の場合はパスや日時から勝手に推測せず、手動解決すべき競合として保持する。競合が存在しない通常時は、通常の書き込みによって単に現在のデータベースリビジョンが前進する。
組み込みのコンフリクトインスペクターは、現在の winner、すべての conflict leaf、および最も近い利用可能な共通祖先を検査する。インスペクターは欠落したチャンクやファイル/データベース間の差異を報告し、現在の leaf を明示的に選択して操作できるようにする。変更を伴う操作は実行前にリビジョンを再確認し、古い画面状態によってすでに末端ではなくなったリビジョンを誤って削除したり前進させたりするのを防止する。
## Transport-independent replication
CouchDB のリビジョンモデルを基準に、Self-hosted LiveSync はデータベースの表現を通信トランスポートから分離し、バックエンドにかかわらずファイルメタデータのリビジョン識別子と競合する leaf をそのまま複製する。CouchDB [@couchdb] ではネイティブなリビジョン複製を利用する。S3 互換オブジェクトストレージでは、メタデータドキュメントの末端リビジョンと祖先リビジョンの識別子をジャーナルに記録し、新しいローカルリビジョンを作成せずに適用する一方、チャンクドキュメントは内容由来の識別子を保持し、新しいローカルリビジョンとして保存される。WebRTC ピアツーピア(P2P)アダプター [@webrtc] は、Trystero [@trystero] の DataChannels と RPC ベースのレプリケーション shim によりドキュメント要求をバッチ処理し、同一のリビジョンセマンティクスをピア間で直接保持する。CouchDB およびジャーナル転送においては、Web Streams が転送をパイプライン処理し、転送中にメモリーへ保持されるデータ量を抑制する。
これらのトランスポートは柔軟に組み合わせられる。P2P 同期は参加デバイスが同時にオンラインである必要があるが、中央の CouchDB やオブジェクトストレージを併用することで、オフライン期間を挟んだデバイス間でも同期できる。すべての通信方式でコンテンツのエンドツーエンド暗号化とパス難読化をサポートしている。P2P では接続交渉時のセッション記述が暗号化されるが、シグナリングリレーやネットワークサービスからは接続時刻やネットワークアドレスを観測できる。
## Retention and recovery
分岐した各ブランチは未変更のチャンクを共有するため、競合する leaf を保持するために生じるコストは主に新規チャンクとリビジョンメタデータに限られる。蓄積した保存領域はリモートデータベースの再構築によって回収できるほか、CouchDB 向けには、明示的に開始するベータ版のガベージコレクションにより、現在の winner、すべての conflict leaf、および未解決の競合を検査するために必要な、利用可能な祖先から到達可能なチャンクを保護しながらインプレースで回収できる。過去のリビジョンで置き換えられたチャンクは後から回収されうるため、過去のリビジョン本文は無条件のバックアップではない。
必要なチャンクが欠落している場合でも、読み取り不能な現在のリビジョンはリビジョンツリーに残り、競合処理によって自動的に破棄されることはない。欠落したチャンクが他のデバイスに残っている場合があるため、それらの再接続と同期を待って復旧操作を保留できる。競合インスペクターは影響を受けるリビジョンを明示し、取得の再試行や明示的な復旧操作を支援する。復旧には、デバイス、リモートストレージ、またはバックアップに内容が残っている必要がある。
# Research Impact Statement
Self-hosted LiveSync は、著者が複数のデバイスやプラットホームを対象に行うソフトウエア開発業務から生まれた。この作業では、主たるデバイスを利用できない状況でも、各デバイスでスクリーンショットを取得し、観察記録を保存する必要があった。同じワークフローは、現在では著者の先行技術調査にも利用されており、先行文献の読解に伴うメモや考察を同期するために用いられている。競合する版が保持されることで、分岐した記録が即座に上書きされず、後から比較・確認することが可能になる。
ユニットテストおよび結合テストは、リビジョンの系譜、チャンクの到達可能性、利用できない内容、およびホストの構成を対象とする。CLI および実環境の Obsidian によるシナリオでは、競合する leaf が残っている状態での編集、論理削除、およびリネームを含め、競合の伝播と解決を検証する。3ノードの P2P シナリオでは、未解決の leaf が解決前にデバイス間を移動できることを確認している。再利用可能なヘッドレステスト基盤は独立してアーカイブされている [@fancykit]。決定論的なフィクスチャーを用いて同一の生成データ上で P2P と CouchDB の経路を比較しているが、制御されたローカル測定値が普遍的な性能を示すわけではない。
2026年9月2日時点で、Obsidian プラグインディレクトリーでは 90万回以上のダウンロード、デスクトップおよびモバイルのサポート、ならびに公式の Research カテゴリーへの配置が報告されている [@obsidianplugin]。GitHub リポジトリーでは 12,200件以上のスター、440件のフォーク、および広範なユーザーコミュニティーからの貢献が記録されている [@selfhostedlivesyncrepo]。これらの数値自体は研究上の直接的な影響を証明するものではないが、本ソフトウエアがコミュニティーに受容され、単一のプライベートなワークフローを超えて運用されている証拠を提供する。
本稿で説明したソフトウエアは Self-hosted LiveSync 1.0.23 [@selfhostedlivesync] であり、MIT ライセンスの下でリリースされ、Commonlib 0.1.21 [@commonlib021] に固定されている。プラグイン、再利用可能なテストハーネス [@fancykit]、および以前の Commonlib 0.1.19 のスナップショット [@commonlib] は Zenodo に恒久的にアーカイブされており、プラットホーム非依存のロジックが独立したテストと再利用を可能にしている。
# AI Usage Disclosure
2026年7月から9月にかけて、コード探索、テストおよびベンチマークの足場作り、CI およびドキュメントの編集、原稿の推敲および校正、レビュー、引用の検証、ならびに結果の要約に GPT-5 を使用した OpenAI Codex が利用された。また、Codex を通じて GPT-6 も 9月の原稿レビューおよび改訂を支援した。本原稿の準備において、その他の生成 AI ツールは使用されていない。GitHub Copilot(モデルおよびバージョンは未記録)は、本リリースに含まれるコミットの実装、テスト、およびドキュメント作成を支援した。Google GeminiGemini Flash バージョン 3.5 から 3.8)は、リソースチェックおよび関連するコードベースの検証に使用された。人間の著者自身がすべての支援出力をレビュー、編集、および検証し、主要な設計判断を行い、関連する検証コマンドおよびベンチマークコマンドを実行した。著者は、提出された資料の正確性、独創性、ライセンス、および倫理的コンプライアンスについて引き続き全責任を負う。
# Acknowledgements
著者は、プロジェクトの貢献者、ユーザー、ならびに PouchDB、CouchDB、および Trystero のアップストリームメンテナーに感謝の意を表する。本プロジェクトは、GitHub Sponsors を通じたコミュニティーの支援、JetBrains からの開発ツールライセンス、および OpenAI の Codex for Open Source プログラムによる支援を受けている。
# References